【感想】『死刑 その哲学的考察』

以前参加した哲学カフェで、テーマ案として「死刑制度について」というのが挙がったことがありました。

考えなきゃいけないテーマだなぁと思いましたが、どういう理論や背景があるのかを知らないと話せないんじゃないかと思って、この本を読んでみることにしました。

 『死刑 その哲学的考察』

内容<amazonより>

死刑の存否をめぐり、鋭く意見が対立している。
「結論ありき」でなく、死刑それ自体を深く考察することで、これまでの論争を根底から刷新する、究極の死刑論!

印象に残ったところ

印象に残ったところを3つ紹介します。

1.応報感情を否定することは不可能

「死んで罪をつぐなう」というのは、「死ねば許される」ということではありません。

例えば、何の罪もない児童をつぎつぎと殺傷した凶悪犯がもし自決してしまったとしたら、

私たちが感じるのは、凶悪犯を私たち自身の手で処罰できなかったという無力感であり、さらには「死ぬのなら何をしてもいい」ということを許してしまったという無念の気持ちです。

死んで罪をつぐなうべきだとしても、それはあくまでも処罰されることをつうじて、なのです。

「処罰されるべき」という感情は「応報感情」です。

応報感情には、「自分にやさしくしてくれた人にはやさしくしたい」というポジティブなものと、処罰感情のようにネガティブなものがあります。

「死刑になって死んで罪をつぐなうべき」という処罰感情を、「他者に寛容であるべき」といった道徳的説法で克服することは不可能です。

なぜなら、私たちは小さな処罰行為を日常的に行っているからです。

例えば、「叱る」「メンバーから外す」「地位から追いやる」といったわかりやすい処罰行為や、気に入らない人に対して「陰口をいう」「馬鹿にする」「心の中で欠点をあげつらって見下す」といった”ささやかな”処罰行為などです。

その幅広さ・根深さを理解せずに、犯罪者の処罰だけを「処罰」としてとらえ、「無条件的な赦し」や「寛容さ」によって克服できると考えるのは、人間に対する単なる認識不足でしかありません。

処罰感情を否定するなら、ポジティブなものも含めて応報感情そのものを否定するのでなければ、理論的にはなりたちません。

しかし、応報感情そのものを否定することは不可能です。

2.道徳的には死刑を肯定することも否定することも可能

私たちは、「絶対に人を殺してはいけない」と考えながらも、その一方で「あんな凶悪な犯罪をおかしたやつは死刑にしろ」「安楽死は認めるべきだ」「女性の権利を考えれば人工妊娠中絶もやむをえない」などと、状況に応じて「人を殺すこともやむをえない」と考えます。

たとえ相反する道徳判断を私たちはなすことがあっても、そこには共通して作動している「道徳なるもの」がたしかにあります。

「道徳なるもの」のもとにあるのは「価値の天秤」と言われるものです。

天秤のそれぞれの皿には道徳的に判断されるべきものごとがおかれます。

そしてそのものごとの価値が釣り合えば道徳的に「正しい」と判断され、釣り合わなければ「正しくない」と判断されるのです。

死刑に反対する人たちは、殺人という犯罪に対して死刑という刑罰は重すぎると考えます。

そこでは、「死によるつぐない」ではなく「心からの反省と更生の努力」こそが、犯罪者のおかした行為と釣り合うと考えられているのです。

道徳とは相対的なものであり、価値の天秤にはどんなものでも乗せられる以上、道徳的には死刑を肯定することも否定することもともに可能です。

3.終身刑の「道徳的歯止め」が必要ではないか

社会の中で生きるのが苦痛で、恨んでいる社会の人を巻き込んで自分も死ぬために死刑になろうとする人にとって、死刑は刑罰としての意味を持ちません。

そんな人にとっては、「死ぬまでずっと刑務所で罪をつぐないつづけなくてはならない」という、終身刑の「道徳的歯止め」が必要になるでしょう。

もちろん、死刑と終身刑のどちらが厳しい刑罰なのかを最終的に決定することはできません。

どちらをより厳しいと感じるかは人によってそれぞれだからです。

しかし、死刑こそが極刑だとあたりまえのように考えてはいけないのではないでしょうか。

「道徳とは何か」について考える本

この本を読んで、「道徳」とは「価値の天秤」によって判断されるということが一番印象に残りました。

わかったふりをしてたけど、全くわかっていなかったことだったと気づきました。

それを踏まえると、死刑制度に賛成か反対かの意見が堂々巡りになってしまう理由も納得できました。

道徳的に死刑制度が正しいかどうかは判断できないとしても道徳的歯止めとしての極刑を考えなければならないという点から、

道徳とはどういうものかを理解しておくことが死刑制度を考える上で必要になるのだと思います。

¥1,034 (2021/06/27 21:38時点 | Amazon調べ)
\楽天ポイント4倍セール!/
楽天市場
\ポイント5%還元!/
Yahooショッピング

コメント

タイトルとURLをコピーしました