小説って、作者の人生がわかるとより深く理解できる気がしませんか?
文豪の人生をまとめた本はいくつかありますが、この本はタイトルと表紙がダントツにかっこいいんです!!!
思わずジャケ買いしました…!
この本は文豪の生き様について、作品や書簡などから仮説を立てて解説されています。
とても面白かったので紹介します!
『文豪の死に様』
<amazonより>
文豪たちの「死」から、その「生き様」と「作品の意味」を解き明かす。京極夏彦氏との対談収録!
印象に残った文豪
印象に残った3人の文豪を紹介します。
芥川龍之介
芥川の自死は、優れた才能を持ちつつも性格は極めて常識的だった人間が、たまさかスターになってしまったがゆえに陥った穽(おとしあな)であるように感じる。 ーp108
芥川は、文章上こそ冷淡なニヒリストの顔を見せますが、実生活では常に「ちゃんとした人」であろうと鋭意努力してきた人です。
職業作家として妻と子供三人に加え義父母と叔母を養い、自死してしまった義兄の家族も養うこととなります。
先端文学者として時代の寵児となりましたが、それゆえに自分が時代遅れになっていく不安を感じていました。
そんな時に起きた義兄の自死は、『歯車』という作品に芥川の心象風景として描かれています。
それは、日常の些細な出来事に一々死神の影を見出してしまうというものです。
芥川は「自分を小説に落とし込む」作業を繰り返すことによって、希死念慮を固定化していったのではないでしょうか。
書くことで救われるのが素人なら、玄人は書くことで己を壊していくのかもしれない。 ーp138
梶井基次郎
梶井は、肺炎カタルと診断されてから闘病生活が十二年も続きました。
大学を卒業してからの梶井は、友人たちが己の人生を雄々しく歩み始めたのを尻目に、自分は保養のために都会を遠く離れた温泉街や文化的環境に乏しい実家で死に向き合っていました。
しかし、彼は自己憐憫の海に沈むことはありませんでした。
唯一自由になる想像力を武器に、いつも目の前にぶら下がっている隣り合わせの生と死を、己の文学へ大胆に取り込んでいったのです。
『冬の蠅』という作品では、死を避けることができないちっぽけな蠅の姿に己の行方を重ねていますが、そこはかとないユーモアが全篇に漂っています。
彼の本質は間違いなく大阪の「あほぼん」であり、陽性の精神でできあがっています。
そして、陰の部分は幻想の世界で自由に遊び、死と親しみ、自分を含めた人を思うさま弄ぶことで精神の均衡を保っていました。
『Kの昇天――或はKの溺死』や『ある崖上の感情』という作品では、ドッペルゲンガーが主題となっています。
梶井は、病という現実を前に、文学的離人症を発していたともいえる。そんな彼は、自分を客体としてじっくり眺めながら、十年ほどかけてゆっくりと死へと近づいていった。 ーp176
岡本かの子
岡本かの子は、貧苦、子育て、恋の修羅、実家の不幸などといった精神的ダメージが積み重なって、次第に言動がおかしくなり、24歳の時に精神病院に入院することになってしまいました。
そうなって初めて、夫の一平は自らの放蕩と無責任によってかの子が壊れてしまったことを自覚しました。
以後一平は自らかの子の下僕、そして使徒となり、その献身はかの子が死ぬまで揺るぎませんでした。
このことによってかの子は、家族の死によって失われた「全肯定者」を再び得て、捻じれかけた自己愛を育てていきました。
かの子の揺るぎない自己愛は「歪みのない自尊心」から成り立っており、世間の非難は承知の上で「私は私」と言い切る強さがありました。
そのためにかの子とかの子の文学は、並々ならぬ強さを湛えています。
個人が集団の悪意から我が身を守る最大の武器は、健やかな自己愛と自尊心、そして愛というエネルギーを常に補充してくれる理解者だ。だが、理解者、自らが率先して愛と肯定を与えるということによってのみ得られる。 ーp252
そんなかの子は夫と愛人たちに見守られながら、49歳の若さで生涯を閉じました。
文豪の人生がわかるおすすめの本です!
小説家の人となりについて知ると、その人が身近に感じられて作品の内容が理解しやすくなるような気がします。
この本の著者が立てた文豪についての仮説は、納得できる説得力があって興味深いです。
小難しい部分もありますが、少しずつ読んでも楽しめます。
あと、挿絵に味があってかっこいいのも良かった!
文豪の紹介についての本は好きなので、もしみなさんもおすすめがあれば教えてください!
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